『年鑑 石指拓朗 2018』
ステージの石指拓朗はいつも心を丸裸にして歌う。日々の生活の悲喜交々が描かれる歌物語には希望と自信と意地と愛嬌、そしてほんの少し本音の吐露が見える。歌を唯一支え、彩るギターの音には豊穣なフォークの風が吹いている。だがその弾き語りはフォークの言いなりになることを頑なに拒みながら、常にうたのゆくえを探して彷徨っているようだ。だから石指拓朗のライヴは観るたびに違った風景を見せてくれる。
2017年の2ndアルバム『ねむの花咲く その下で』リリースを経て迎えた石指の2018年。「ライヴが充実していた」としみじみ語るようにライヴハウス・ライヴスペースだけではなく、古本屋、カレー屋、個展会場、演劇の終演後、そして突発的に居酒屋や公園などでも、環境を選ばず歌える場所を求めては、どんなところでも届く歌の力を携えていった。またもう一つの大きなトピックとしては田中ヤコブ(Gt)、牧野ヨシ(Ba)、藤田愛(Dr)とのバンドセットが始動。弾き語りとはまた異なるアウトプットを獲得し、来年以降さらなる展開に期待できる。
そんな新たな可能性への胚芽を見せた“第二章へのプロローグ”と成りうる、この一年を記録として残しておくのが本稿の趣旨だ。「年鑑 石指拓朗 2018」と題して年の瀬のある一夜、高円寺にて。石指にじっくり振り返ってもらった。
取材・文 峯 大貴
<第一部:石指拓朗 2018年総括インタビュー>
――このインタビューでは石指拓朗の2018年を振り返っていっていただきます。この一年はいかがでしたか?
ライヴにすごく恵まれた年だった。本数自体は多くなくてこの後控えている年内最後の12月28日のライヴを入れても17本しかやっていないんだけど、それが全部鮮明に記憶に残っていて充実していたと思う。友達と一緒にいる時に飲み屋さんとか公園とかで突発的に歌ったりすることも多くて、体感的には17本以上あるんだけどね。
――じゃあすごくハッピーな年だったと。
トータルはそうなんだけどバイオリズムの上がり下がりが激しくて。その幅がどちらもめちゃめちゃ大きかった1年だったともいえる。なんとか乗りこなして過ぎていったような感じ。東京大好きなんだけどめちゃくちゃ嫌いになる時もあるし。
――どうやってそんな心持ちを保っていたんですか?
直近の自分のライヴ録音とか新しい曲を聴いて考えたりして保ってた。あとは近しい人の作品とか。牧野(ヨシ)くんの曲と、(田中)ヤコブの今年出た『お湯の中のナイフ』はめちゃめちゃ聴いていた。カネコアヤノさんの『祝祭』もよく聴いてた。
――‘’巣鴨千成り”や“雲見温泉”など牧野さんの曲を石指くんがライヴで歌っているところも今年はよく見ましたね。昨年2017年は2ndアルバム『ねむの花咲く その下で』のリリースという大きなトピックスがありましたが、2018年の目標はあったんですか。
...少し言うと弾き語りの作品のリリースを構想していたんだけどね。過去リリースした曲とか歌も成長しているし、歌い方も変わってきてると思うので、新旧盛り込んで“今の歌を録る”みたいなコンセプトのもの。録音方法とかやりたいことのアイデアはいろいろあって、サードアルバムも視野に入れてた。自主レーベルだからなんでも自分次第なんだけど、だからこそハートの燃え具合とか作るためのストーリー、意味付けが絶対必要で。そのタイミングを見計らっていた。そういう意味ではインプットの年だったかもしれない。随分自分自身と対話した一年だった。
――でもいいライヴが充実していたってことはそのストーリーを作り上げることが出来た年といえるのではないでしょうか。この一年で得たものやライヴで新たに感じたことなどはありましたか?
歌に対しての集中力が上がった気がする。例えば状況も心持ちもバタバタで自分のライヴを迎えても、すっとリラックスして気持ちを持っていって、いいパフォーマンスが出来るようになった。あとやっぱり弾き語りのライヴって演奏中は自分自身が楽しいって思うこと、あんまりないんだよ。お客さんの反応を見ながらどうやって聴かせようかってことを考えているから。でも今年の後半は楽しさの方が勝っちゃったな。ディティールやライヴの流れをしっかり組んでいくよりも「思いっきり歌お!」って。だから聴いてくれるお客さんに支えられているってことを噛み締めるような日も多かった。
――去年まではライヴを見ていて、周りよりもいいパフォーマンスをしてやる!ってギラギラしている瞬間も感じましたけど、段々と自信に満ち溢れてきた感じがします。
あー…そっか、ギラギラかぁ(笑)。確かに聴いてくれ!負けてたまるか!とかは全然思わなくなった。聴いてくれる人の顔や耳を意識して歌うだけだね。なにか付き物が落ちた感じもするし「俺は自分のことで精一杯なんだよ!」って感じもする。自分と向き合った1年の成果なのかも(笑)。
――そんな中で新曲は続々とライヴでも披露されていますしね。
“春と夏と秋と冬について”が出来たのは大きかった。これを作った時は気持ちが相当オジャンだったの。“四季の歌”みたいに春夏秋冬を歌い込んでいくんだけど、“春がきたなら起こしておくれ”っていう一節があって。今年はなぜか音楽含めて辞めていった人たちや辞めざるを得なくなってしまった人たちのことが思い出されて。状況や自分自身が変わっていく中で今までやってきたことが続けられなくなったり、心の火が消えていく気持ちがすごくわかる。継続が力なりなんて思えないし、自分もただやりたいから今も音楽やっている。そんな気持ちの中でも春は希望の季節だし毎年必ずくるから、俺もう頑張れねぇよ、春が来たら起こしてくれよって気持ちで書いた。だから弱っていても確実に希望の歌なんだよね。
――春と夏のパートまではギターも弾かずアカペラで歌うアプローチも今までになく新境地ですよね。これが始まると会場がスッと聴き入るモードに入るすごい曲だと思います。
声の響き方が活かせる曲だからアカペラで話しかけるように歌う方がいいと思った。それで秋くらいからギターが入る。俺、肩こり持ちだから寒いの嫌だし、夏終わってだんだん寒くなっていく厳しさがギターに表れてく感じ。感情的なアプローチが反映されているね。
――それと今年の最大の石指拓朗のトピックスと言えば、田中ヤコブさん(Gt)、牧野ヨシさん(Ba)、藤田愛さん(Dr)とのバンドセットとの始動ですよね。
そうだね。そもそもの出会いでいえばまず牧野くんはラッキーオールドサンの篠原(良彰)くんがやっているCOPIESってバンドのベースとして出会った。2013年。もちろん当時からシンガーとしてもやっていたからCDくれてずっと聴いていたけどね。高円寺のU.F.O.CLUBとか無力無善寺とか新宿御苑音楽スタジオでCOPIESがライヴをよくしていて、企画に呼んでもらったりで仲良くなっていった。
――ベーシストとしての牧野さんの魅力は?
抽象的な表現になるけど存在感を消してもちゃんとそこにいるベースなんだよ。今バンドでやっている“バカみたい”なんてずっと8ビートのルートを弾いているだけなんだけど間が持つし、音を出すだけで魅力的。間奏だから過度に前に出るということもなく、坦々と自分の音を出していて、そこに芯があるのがすごいよね。シンガーソングライターの牧野くんが書いている詞とベースとして出す音は同じ響きがする。あとある時二人で飲んでいて牧野くんが「俺ハモりが一番上手いっす」って自信満々に言うんだよ(笑)。でも確かにハモリの引き出しも多くて、曲の景色がめちゃくちゃ豊かになる。機材や楽器がお互いに好きだからそういう話もよくするけど、ベース弾こうがギター弾こうが歌を歌おうが牧野くんは生粋の音楽家。
――ではヤコブさんと出会ったのは?
ヤコブも自分のバンドの家主(田中ヤコブGt,Vo)としてCOPIES主催のイベントに出ていて。もう一発目に聴いたギターの音からすごかった。転換中のBGMで流れている初めて聴くであろう曲に乗せて即興でセッションしてサウンドチェックしているんだよ。それがまたかっこよくって。ギタープレイで徐々にフロアをヒートアップさせていって、そのフロアを引っ張り引っ張られて自分自身もさらにヒートアップ&ブラッシュアップしていくという。特に今年はトクマルシューゴさんの主宰レーベル(TONOFON)からソロ名義で1stアルバム『お湯の中のナイフ』のリリースがあって。その知らせもすごく驚いたけど見つけられるべくしてだと思う。どの楽器も目が飛び出るくらいうまいんだけどそれだけじゃない表現力も図抜けてて。歌声がまたいなたくて、弾き語りも良いの。あんなギタリスト、いないよ。
――そんな旧知の仲の二人とバンドを画策すると。
牧野くんとヤコブとバンドがやれたら面白いんじゃないかっていうのは1~2年前から話していて。でもどういう曲をやりたいのか、どうアプローチしていくのか、自分の頭の中で具体的にイメージが固まりきっていないのがしばらく続いていた。そんな中、今年はイベントでヤコブや牧野くんと一緒になる機会が割とあったから、もう一度実現に向けて相談してみた。そしたら牧野くんは返す刀でやりますよって言ってくれるし、ヤコブもまずスタジオ入ってみましょうよと言ってくれた。でもドラマーがずっと決まらなかったんだよ。普段弾き語りだからこそ、自分のリズムにこだわりがあって。弾き語りにはオンタイム(リズムが一定)じゃないからこその良さがあるんだけど、バンドになるとそれができないから、楽曲とアレンジそのものの良さに頼らざるを得ない。でも単なる自分の楽曲のロック・ヴァージョンじゃだめ。そのために牧野くんとヤコブはプレイヤーとして好き勝手やってほしい。だから俺とドラムの縦のラインは絶対重要だと思ってて。
――それでドラマーとして誘ったのが藤田愛さんだった。
近くにうってつけのいいドラマーいるじゃん!と思い立って藤田にお願いしてみようと閃いた。藤田は自分が弾き語りを始める前にギタリストとしてやってたバンドで一緒にやっていて。シーンからはしばらく離れていたんだけど、ドラムの練習だけはずっと続けていたらしくて。何年も会ってなかったけど「すごい奴らいるからまた一緒に音楽やろう」って連絡して、二人でスタジオ入ってリズム合わせたらこれじゃん!ってなった。タイトさと強靭なバックビートを持ってるドラマーだと思う。それからみんなでスタジオ入ったら、1回目の練習なのにもうライヴできるじゃん、ってくらいキてて震えた。
――今年はこのバンドセットで2回ライヴを行いましたね。来年以降の展開などは考えているのでしょうか?
今年バンドセットでやったのは既存の自分の曲で、全部弾き語りでやることを想定していたから今後はバンドセットのための曲も作っていきたい。集まっただけで奇跡みたいな面々だから、一緒に演奏するだけでいつも感動してる。みんな楽器が達者だからどんな場所でもできるしTPOに合わせてビシッと良い演奏を決めていきたい。
――では来年以降かなり明確な目標が出来ましたね。
うん。これまでの曲や新しい曲を織り交ぜた弾き語り盤と、来たるべきサードアルバム。そしてバンドセットを仕上げていく。俺の楽しみはそれくらいだね。
<第二部:石指拓朗 2018年のライヴ、トピックスを振り返る>
●1月29日(月)東京 下北沢 風知空知
「FOREVER YOUNG」
共演:谷口貴洋 / 大谷ペン / PEIGY
2015年から始まった弾き語りイベントで、この日はトリの出番だった。年明けてしばらく経っての歌い始めだったんだけど、マーチンのサンバーストのD-18を買って初めておろした日で。そして大好きな会場の風知空知だったからとにかく気分よくやれた。
●同日、Webサイト<ミーティア>にて漫画家・大橋裕之のシリーズ連載「あの曲、ぼくが作ったことになればいいのに」に石指拓朗が登場。朝比奈逸人「もう終わりさ」を選曲。
大橋さんはもう東京引っ越したての時から10年くらいの付き合いになる吉祥寺の飲み友達で、いい先輩。ミュージシャンの交友範囲も広いんだけど、出てよって誘ってくれて曲だけ選んで渡して、漫画に仕上げてくれた。
朝比奈逸人の曲選んで。もうこの人になりたいもん。声色やギタープレイとか真似しているところも多い。高田渡が朝比奈逸人の“トンネルの唄”をずっとレパートリーにしていたんだよね。高田渡って山之口貘(『生活の柄』『石』『鮪に鰯』など)とか金子光晴(『いつになったら』『69』など)の詩に曲をつけている曲も多いでしょ。だからこんなテイストの曲を作ったのは誰だ?って調べたらたどり着いた。70年代当時のフォーク・シーンについて語られている本を読んでいてもアメリカ帰りのブルースを鳴らす存在として周りのミュージシャンがみんな認めていて。でも1枚も作品を残してない、ライヴ音源でしか聴けないっていうところも含めて自分の中で神格化されているのかも。
(※朝比奈逸人は70年代中盤に活動していたフォークシンガー。アルバム作品は残しておらず、春一番やホーボーズ・コンサートなどのライヴ録音でのみ今も聴くことが出来る伝説の存在。)
●2月4日(日)東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
「代官山 酔いどれ唄酒場」共演:中川五郎 / 蠣崎未来
いいタイトル!この日は晴れ豆のフロア全体に畳が敷かれてみんな地べたに座って聴くスタイル。しかも五郎さんセレクトの日本酒もあって。名古屋のシンガーの蠣崎さんもよく飲んでた。でも五郎さんも蠣崎さんもこれまでそれほど接点がなくって、ましてやこっちから大先輩の五郎さんに「アンコールで一緒にやりましょうよ!」とか言えないじゃん。だからトリの五郎さんがアンコールやって終わるのかなって思ったんだけど、「最後は3人で石指くんが主導してやります!」って言ったからもうどうしよう!って。だから必死で考えて五郎さんの“主婦のブルース”だったら出来るから提案したら「絶対やりたくない!」って断られた…!それで「リハーサルで逸人の曲やってたよね?」って返されて結局一人で朝比奈逸人の“トンネルの唄”を歌うことになった。いや、すごい人だ。打ち上げは五郎さんよりも先帰ったんだけど、最後に挨拶する時に名残惜しくてもう一回ギター出してきて朝比奈逸人の“雨”を正座しながらやった。五郎さんもお客さんも楽しそうに聴いてくれてた。
●3月3日(土)東京 渋谷 TSUTAYA O-nest
「うたのゆくえ」
共演:石指拓朗 / 折坂悠太(合奏) / カネコアヤノ(バンドセット) / 台風クラブ / ドミコ / 中村佳穂(バンド・セット) / 西村中毒 / バレーボウイズ / ひとりキイチビール / 本日休演 / 牧野ヨシ / ラッキーオールドサン(バンドセット)
【トークセッション “東京のうた、京都のうた”】
松永良平 × 岡村詩野
【DJ】
Mikiki DJs(天野龍太郎、田中亮太 etc.) / 岡村詩野 / 松永良平
【出店】
ココナッツ・ディスク
これ須藤さんという方が1人で企画したイベントで、オファーの時点から「トップバッターで!お願いします!!」って言われてたよ。nestの入り口のフロアでの演奏だったからお客さんとの距離も近くって、スタートから人パンパン。誰かをめがけて見に来る人というより、本当に今の新しい音楽を聴きたいってお客さんに溢れていた感じがした。ココナッツ・ディスクの物販とかMikiki、岡村詩野さん、松永良平さんもいて、ミュージシャン、伝える人、売る人って音楽が作られてから人の耳に届くまでの全てがこの現場にあったね。自分の出番は早々に終わったから牧野くんのステージにも出たんだ。牧野くんが久々のライヴで緊張してて、めちゃめちゃ酒飲んでたな。俺、飛び入りする直前に控室にいたバレーボウイズの(前田)流星に「タンバリン借して!」って言ったら、初対面なのにニコニコ顔で貸してくれて、飛び出して“巣鴨千成り”歌った。楽しかったなぁ。
●3月4日(日)東京 王子スタジオ
「演劇ユニット・ウンゲツィーファ「転職生」千秋楽公演アフターライヴ」
そんな“うたのゆくえ”の次の日。ウンゲツィーファは本橋龍っていう主催者が公演のたびに役者を集めるってスタイルの演劇ユニット。本橋くんには今年俺のドキュメンタリー映像も撮ってもらった。俺、演劇見に行くのも好きだから普通に見に行く予定してたらアフターライヴしてくださいってオファー受けて。だから公演中は普通に観ているんだけど、俺本編に全く関わっていないから、この後にどうやって出ていこうかなって必死で考えていた。でもその内容は社会の人間模様を描いていて、自分が普段歌っていることとも繋がるなって思ったんだよ。途中から俺、ここだったら何歌っても大丈夫だなってほどシンパシーが沸いて。この日は千秋楽だったから公演に携わっていた皆さんへお疲れ様でしたの敬意と、観に来た方へのスペシャルなイベントになればと役を務めただけだね。その後に観に来てくれた知り合いと一緒に王子で飲んだんだけど感想聞いたら、ステージ出てきた時の俺、手も声も震えていたみたい。緊張というよりその演劇内容に心から食らってたんだね。
●3月25日(日)東京 新宿ゴールデン街 BAR nagune
「石指拓朗 弾き語りライヴ」
写真をたくさん飾ってるBARで、すっごいいい雰囲気なの。 “汽車よ”のMVに出てくれた兎丸愛美さんがお店番してて企画してくれた。お店の2階のワンルームマンションくらいのスペースで、また友達の部屋みたいな空間なの。ウンゲツィーファの本橋くんも来てくれたな。兎丸さんのファンの方もたくさんいた。古き良き飲み屋街のゴールデン街を背負って歌っているような気がしてすごくよかったな。本編終わってからも残ってくれてるお客さんや友達に向けてずっと歌ってて、下でお店番してた兎丸さんが「まだ演ってんの〜?」みたいな感じでたまに笑って様子見に来たりしてめっちゃママ感あった。俺完全にゴールデン街の酔っ払いとして街に溶け込んでたと思う。
●4月15日(日)東京 上野 上野恩賜公園野外ステージ「FOREVER YOUNG BIG 2018」
共演:石指拓朗 / 井手健介 / 内村イタル / かみぬまゆうたろう / 清水煩悩 / ひとりバレーボウイズ / PEIGY / 牧野ヨシ / 宗藤竜太(もののあわい) / ラッキーオールドサン
今年で4回目のイベント、4年連続出演で、2年連続でトリやらしてもらった。上野公園の野外ステージが都合上夜遅くまでできないから開始も早くって、最後の自分の出番も夕暮れ時。鳥も飛んでて、広いステージで歌うのが気持ちいいんだよ。弾き語りシンガーの祭典みたいな感じで、心持ちはR-1ぐらんぷりみたい。この日は大阪、静岡、北海道から遠方から来てくれたお客さんも多くって、そういうシンガーたちを見に来る場所のメッカみたいなイベントに年々なっていってほしい。来年もやってほしいな。
●4月21日(土)東京 神保町 試聴室
MIZ "パジャマでハイウェイ/ 君に会った日は" 7inch RELEASE PARTY 東京編
共演:MIZ
MONO NO AWAREの(玉置)周啓くんと(加藤)成順くんのユニット、MIZの二人が呼んでくれたレコ発パーティ。成順くんは前に家に来てギター教えたり、アコギ買う時に相談してくれたりとか、縁があって。アンコールは3人で高田渡の“アイスクリーム”をガンってやってパン!って終わった。神保町の試聴室は俺がよく自主企画をやっていたんだけどパンパンに入ったことはなくって。でもこの日はいっぱい人がいてMIZの人気にびっくりした。
●6月23日(土)広島県 尾道市 古本屋「よる」
「よる 開店祝い ~石指拓朗ワンマンライヴ~」
自分の古い友達が古本屋さんを開店するってことで久しぶりに尾道にライヴをしにいった。店主はもともと東京住まいだったんだけど尾道に移住して。20代のお互い暇だった頃は吉祥寺で週8回くらい遊んでいるほどの仲だったの。俺は故郷が鳥取なんだけど、この日は今広島の大学生の従兄弟が友達連れて見に来てくれたり、久しぶりに観に来てくれた懐かしい顔もいて嬉しかったなぁ。本編終わって、その後尾道の繁華街繰り出して有名な飲み屋を調べて行ったら、さっきいたお客さんがほとんどいるのよ(笑)。そこで2ステージ目。その後俺が行きたかったハンドクラフト&ボトルカフェ“YES。”ってバーに行った。3階にあるんだけど、その建物の屋上のバルコニーがあってハンモックがかかっているすごく雰囲気のいい場所で。そしたらまたそこにギターが置いてあるんだよ。そこで3ステージ目。歌ってたら下で飲んでたお客さんもみんなバルコニーに上がってきて。聴いてくれるから嬉しくていよいよ明け方なのに声が枯れないのよ。ほんで次の日、起きてぼちぼち散歩してたら、ついさっきまで飲んでたみんなが神社の一角のフリマ?店舗?みたいなところで仲良く平和に陽射しを浴びながらブランチ食べてるの!めっちゃ元気だな!なんて思いながら俺もめっちゃ元気もらった。“眠れない夜ならば”の動画も撮ったりして充実の尾道の旅だった。
●7月7日(土)東京 世田谷 atelier ST,CAT
西脇衣織 個展 『あたらよの陽』~オープニングレセプション~
七夕!西脇衣織さんは絵とか版画やコラージュとかをやっている人で。個展のレセプションパーティだから当然個展をめがけて来た人が多かったんだけど景気よく歌えたと思う。この日は自分の作品の流通をやってくれているブリッジの代表が近いところに住んでいるらしくって、Tシャツ短パンで観に来てくれた。音楽好きの飲み友達連れて(笑)。イベントもひとしきり終わった後、俺もまだまだ歌い足りなくて代表と友達連れて、駒澤大学近くの公園で歌ってたら警察に止められた(笑)。
●7月20日(金)東京 久我山 ジャイジャイカー
『オオヤヨシツグ5回目の個展~オープニングパーティー~』
共演:osono / 横沢俊一郎 / イラミナ(こみゅにけいしょん) / 湯澤ひかり / 川副賢一(gellers) / YAOAY(a.k.a笹口騒音) / トークショー:九龍ジョー&斎藤録音
オオヤヨシツグくんは同い年の絵描き。『ねむの花咲く その下で』のデザインをやってくれた花原(史樹)くんとかEnjoy Music Clubの繋がりで知り合ったんだけど、ミュージシャンとの交流も広いみたいで。そんな彼とつながりのあるミュージシャンが集まった。ジャイジャイカーってところはインド料理屋で、この日だけここ一帯が夏祭りくらいに人が溢れて盛り上がったね。入りきらなくて道の向かい側からライヴ観ている人がいたりこれ問題にならないのかってくらいの人だった。笹口さんと会うのが久しぶりで嬉しかったな。夏祭りみたいな一日だった。
●8月5日(日)東京 渋谷 7th Floor
田中ヤコブ1stアルバム『お湯の中のナイフ』発売記念イベント 「ナイフの入ったお湯」
共演:家主(田中ヤコブ在籍バンド) / ラッキーオールドサン(バンドセット) / 牧野ヨシ / DJ トクマルシューゴ
※牧野ヨシのステージに飛び入り出演
牧野くんとヤコブに飛び入りしてくださいよと言われてて。「オーケーわかった。俺は会場にいるから呼んでくれたらいつでも発動するぜ」って事前に相談していて。牧野くんのステージは最初半分くらい弾き語りやって、後半は家主がバックを務めるって流れだったんだけど、ヤコブが「今日はマイメンが来ています」って呼び入れてくれて、それがスリリングで嬉しかったな。飛び入りで牧野ヨシの“巣鴨千成り”を歌った。ヤコブリリースおめでとう~って気持ち100%で歌えた。それで一回俺ステージ降りたんだけど、牧野ステージの最後にラッキーオールドサンの篠原くんが呼び入れられてて、牧野くんの“ホームラン節”をやったんだ。あれは詞が篠原くんで。篠原くんが「ヨイショッ!」って相の手入れて、俺も完璧に歌える曲だったから、呼ばれてないのにまた歌ってハーモニカまで持ってステージ上がっちゃった。
●8月11日(土)東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
『川床 「明け方、ふもとより」発売記念公演 ~山唄vol.2 ~』
共演:あだち麗三郎と美味しい水 / 川床 / DJ:KONPEX
川床のレコ発でお昼のライヴ。川床、あだち麗三郎と美味しい水と二組が大所帯の中、俺だけ1人弾き語り。こういう日好きなのよ。めちゃめちゃ調子良く歌えたな。この日はMikiki(タワーレコードの音楽レビューサイト)の密着取材が入っていてインタビューされながらそのままの感じでステージに立ったのもリラックスできた要因かも。終演後も取材を受けながら打ち上げ行って、吉祥寺のアムリタ食堂行って、井の頭公園で弾き語って深夜12時まで。この日は夏の思い出だね。アウトロの方が長かったよ!
石指拓朗、12時間密着ドキュメント―新世代フォーク・シンガーの魅力に迫る
●9月8日(土)東京 下北沢 BASEMENT BAR『Mikiki Pit Vol.5』
共演:福田喜充(すばらしか) / 阿佐ヶ谷ロマンティクス / やなぎさわまちことまちこの恐竜
Mikikiの取材記事を受けたお昼のイベント。この日はお客さんの聴く力が強くって共演のバンドと同じように自分にバックバンドがいるんじゃないかって錯覚するような心持ちだった。あとイベントの宣伝の一環でラジオで田中亮太さん(Mikiki)が曲を流してくれたのかな?それで地元鳥取の高校の同級生が「今日昼間車運転してたらいい曲かかるなって思ったら拓朗ちゃんでびっくりした!」ってLINEが来て。高校以来会ってない友達なんだけど嬉しかった。
●9月9日(日)東京 東高円寺 U.F.O.CLUB
共演:カリギュラはきまぐれ / ある日、蔵の中 / PRETTYTHREE / ベアーズマーキン(松本) / てあしくちびる3 / どろうみ / うしろ前さかさ族
※石指拓朗(バンドセット)、デビューライヴ。
この日はバンドセットのデビューライヴ。我が心の故郷U.F.O.CLUB。ステージで歌いながら感動してた。そしたら珍しく“バカみたい”の歌詞飛ばしたんだよ。セッションっぽいアレンジだったから演奏はすぐ軌道修正できたんだけど。終わった後メンバーに「歌詞飛ばしてごめん!」って言ったら「あそこのコードのAが合った時に一番ぐっと来ました」って言ってて。俺が歌詞を飛ばしたにもかかわらずそれが全体のグルーヴを生むという。沸点そこ!?って思ったけど(笑)最高だった。
●9月22日(土)東京 三鷹 おんがくのじかん
国宝太郎活動5周年企画「拓朗くんと太郎くん」
共演:国宝太郎
余計なことはなにも考えず誠心誠意ステージを務めた。旧友の国宝太郎の周年企画。アンコールでは国宝太郎の曲をやりまくった。俺から国宝太郎への手紙も読み上げた。自分も国宝もおんがくのじかん出身のミュージシャンみたいなとこあるからここでしかできないことをやった。
●10月13日(土)大阪 難波 tidepool
「下津光史×石指拓朗ツーマンライヴ」
共演:下津光史(踊ってばかりの国)
“汽車よ”のミュージックビデオには踊って(ばかりの国)の元スタッフのアシュラくんに出てもらったんだけど、そのアシュラくんと下津くんと自分と、踊っての映像や自分の映像も撮ってくれてる辻祐太郎と打ち合わせをして臨んだライブだった。自分にとっては一年ぶりの大阪でのライブ。あくまでいい意味でお客さんのお行儀が悪くて最高だった。ちょっとオフマイクで話そうもんなら「文明の利器使ったって~!」って声飛んでくるし、お冷頼んだら「今から冷やしま~す」とか、曲を弾き出したら弾き出したで「それ好きやでー!」とか、あ~大阪来たな~って思いながら歌ってた。フロアはずっと満員だったんだけど、下津くんの弾き語りがバンドとはまた違ったアプローチで素晴らしかった。“ジョン・ケイル”とか“Boy”とか、弾きだした瞬間に歓声が沸いて客席をもってく感じが本当にすごい。ロックスターって呼ばれる人ってこういう人のことを言うんだろうなって思った。最後は下津くんとフィッシュマンズの“土曜日の夜”と高田渡の“生活の柄”を2人でセッションできて、それも最高で。手前みそながら自分のCDもすげぇ売れてありがたしだった…。思い出深い大阪での一日。
●11月22日(木) 東京 吉祥寺 アムリタ食堂
「石指拓朗ライヴ@アムリタ食堂」
<第一部>弾き語り
<第二部>アコースティック・バンドセット
よく行く吉祥寺のタイ料理屋さんなんだけどライヴとか色んなイベントが定期的にあって。広いしご飯美味しいし雰囲気いいし、吉祥寺の人気店。この日は2部構成のライヴ。弾き語りと、アコースティック・バンドセットでやってみた。アコースティックのセットってすごく難しいんだよね。音量バランスもそうだし各々の技量が試される。練習し始めたらバンドセット2回目のライヴでこれを入れたのちょっと後悔するほど難しくって。個別にメンバーと話したりしてそれぞれの曲のイメージを伝えなおした。あと初の試みで俺が不安なのがみんなにも伝わっちゃったんだよね、ちょっとカリカリしていたし。でもヤコブにアコースティック・セットむずいねってポロって言ったら「いいんじゃないっすか?やばかったら俺いきますわ」って言ってくれてむっちゃかっこよかったな。結果ライヴはすごくいい演奏ができたと思う。今年のベスト3に入るくらい。あと余談なんだけど、ヤコブも牧野くんも藤田も練習と本番が変わらなくって、ただいつもやっていることをやるだけさ、みたいな感じがすごくかっこいいの。冷静なんだけど情熱的。そこにその日の調子というかグルーヴが足されていって相互作用で上がっていくみたいな。演奏面も精神的にもだいぶ助けられている。バンドとして一緒に音楽を奏でるってすごくディープな行為なんだなと再認識した。
年鑑 石指拓朗 2018
取材・文:峯 大貴(ANTENNA)
編集:石指 拓朗、峯 大貴
取材日:2018年12月12日
場所協力:高円寺 Cafe & Bar
SWAMP